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霊鳥の右目(仮)冒頭一部

 海の見える学校の、広い敷地の狭い部屋の中で何人かの男達が会合を開いていた。
 右上に小さな写真を貼った書類、そして写真の人物が書いた論文、考査の結果。それらを照会しながら彼らは品定めを行ってゆく。
「タニグチ君はいいね。卒業論文もしっかりしてるし、うちの研究室で貰いたいのだがね」
「サカシタはどうだね」
「彼は考査の結果がねえ」
「だが体力があるだろ?」
「それは評価に含まれない」
「だが、フィールドワークでは重要だろ。よく働くんじゃないのかね、彼は」
「卒論はどうだった?」
「及第点といったところですかな」
「まぁいい。うちで面倒見よう」
 そんな風に彼らは学生達をふるいにかけていった。何人かを通らせ、何人かを落としていった。
 しかしここまでの過程は彼らの予定の範囲内であり、予想の範疇であった。たった一人、最後の一人だけが彼らの本当の議題だった。
「さて、最後だが」
「彼か」
「ああ」
 教授達は選考書類に目を通す。
「考査の結果は?」
「……トップですな」
「卒業論文は?」
「発表会、聞いていたでしょう?」
「考古学専攻はみんな聞いていましたな」
「私は誰一人、質問しないので焦りましたよ」
「あの後、学生が一人質問しましたな。いい質問だったが、いかんせん彼の切り返しのほうが上でしたな」
 彼らはそこまで言ってしばらく黙った。誰も先に進めようとしなかった。
「欲しい人はおらんのかね」
 一人が沈黙を破ったが、誰一人手を挙げない。
「能力的には並みの院生以上と思いますがね」
「取るか取らないかは別の問題だよ」
「分野的には、フジサキ研だと思うが」
「卒論までと約束しました。皆さんもご存知のはずです」
 その中でも比較的若い男が言う。
「しかし彼を落とすとなると、他の学生も落ちますよ」
「だから困っている」
「ようするに合理的な説明ができるか否かということだ」
「学士は所詮アマチュアだ。だが修士はタマゴとはいえ研究者。この違いは重い」
 結論は出なかった。グダグダと議論が続く。
 否、とっく結論は出ているのだ。議題の人物の受け入れ先など、最初から存在しない。あとは誰が面倒な役回りを引き受けるか。結果を通知し、合理的説明をするのか。それだけなのだ。だが誰も関わりたくない。触りたくない。それだけなのだ。
「休憩にしますかな」
 一人の教授がそう言った時、キイと狭い部屋のドアが開いた。
「お困りのようですな」
 入ってきたのは一人の男だった。コースでは見ない顔だった。だがまったくの知らない顔、部外者という訳でも無かった。
「オリベ君、」
 一人が男の名前を呼んだ。
「民俗学コースの教授が何の用事かね」また違う一人が言った。少し不快そうだった。
 部屋の者達の視線の先にいる乱入者はラフな格好だった。ネクタイは緩いし、履物もサンダルだ。大学教授などそんなものかもしれないが年配には印象がよくない。
「例え話をしましょうか」乱入者は言った。
「考古学コースには誰もが認める優秀な学生がいる。どの研究室も欲しがっているが、その学生がコースの変更届けを出したなら、皆諦めるしかありません」
「……」
 しばらく皆が黙った。いや、食いついた。だが、腹の底で疑念が沸き起こる。
「オリベ君、何を企んでいるのかね」
「何も。ただ僕は優秀な学生が欲しいだけです。こっちでも院試がありましたがロクなのがいなくてねぇ。ただ……」
「ただ?」
「配慮いただけるのであれば、再来週のあの件、譲歩いただきたい」
 目配せしてオリベは言った。
「再来週の……」
「そう、再来週です」
 オリベがにやりと笑う。その言葉の真意に部屋のメンバーも気付いた様子だった。
「つまり取引をしようというのかね。しかし彼が届けなど出すと思うかね」
「出させてみせます。万が一の場合、今日のことはお忘れくださって結構」
 あくまでひょうひょうとした態度でオリベは続ける。
「そうですね。とりあえずは院試の選考を今からでも民俗学・考古学コースの合同だったということにしましょうか。それで責任者を僕にすればいい。問い合わせ先を僕にするんです。入試に関する質問はすべて僕を通すことにしましょう」
 なるほど、と教授陣が目配せしあう。「例の件」はともかく、面倒ごとをオリベに転化できるのは彼らにとっては都合がいいことは確かだった。
「……分かった」
 彼らの代表格が返事をした。
「決まりですね」
 オリベが小さな眼鏡の位置を直す。下から覗き込むように教授陣を見据えた。
 彼は二、三彼らに質問やら手続き的な頼みごとをすると、部屋を出ていった。
 冬であったがこの日は比較的暖かかった。日差しの差し込む廊下をすたすたとオリベは歩いていく。時折学生とすれ違ったが、知らない学科だ。互いにこれといった挨拶は交わさなかった。
 とりあえず文書作成からしなければなるまい、そう考えていた。
『一体何をしようっての』
 途端に声が聞こえて足を止める。
「ん?」
 オリベはとぼけたような声を発する。
『とぼけるな。あんなこと言って。私は反対だと伝えたはずだよ』
 声が響く。
「あのなぁ、俺はいつもお前の言うことばっか聞くわけじゃないぞ」
 面倒くさそうにオリベは言った。いかにもうるさいといった風に。
『どうして? いつもはあんなに素直なのに』
「これはこれ。それはそれ。前にも言ったけどなー、お前の意見を聞くも聞かないも選択権は俺にあるの。たまたま聞く割合が多いだけだろ。あくまで選ぶのは俺だからな」
『私が言って、外れたことがあった?』
「お前が勘がいいのは知ってるよ。だが、これはだめだ」
『だいたいあんなの無理だ。無理に決まってる。夏休み前に相当怒らせたくせに。あの時は本当に危なかった』
「怒らせるのはいつものことだ」
『一緒にいた女の子を覚えてる? あれ以来学校で見かけない……』
「だから? おおかた、別れたんだろ?」
『危険なんだよ。ユウイチロウ』
「お前はいつもそれだ」
『ユウイチロウは鈍いから分からないのかもしれないが、』
「うるさいな。あんまり喋るなよ。ただでさえ独り言が多いって言われてるんだ。文句なら部屋に帰ってからでいいだろ?」
 そこまで言うと声が止んだ。やれやれとオリベはまた歩きだした。ポケットに手を突っ込んで、サンダルを鳴らしながら、民俗学の教授は歩いていった。日差しの指す長い廊下。そこにはオリベを除いて人は歩いていなかった。



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夏コミ受かりました。
8/10 東地区“セ”ブロック-26b に配置されました。

夏コミ新刊収録予定の観察者のリメイクっていうかほぼ新作の霊鳥の右目(仮)冒頭部です。
ツッキーが院試験を受けた時の話。
進度60%くらいでしょうか。無事ものになるといいのですが。
  1. 2012/06/06(水) 20:20:38|
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